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芥川龍之介『羅生門』で伝えたいこととは? あらすじや考察も簡単に解説

羅生門、
出典:Unsplash

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大正期を代表する芥川龍之介の短編小説『羅生門』。
話自体は簡潔ですが、読者の心に深い余韻を与えるダークな内容です。
記事では『羅生門』の時代背景やあらすじ、重要なポイントを簡単に解説します。
また原作の『今昔物語集』との違いから、芥川が設定を変えた理由も考察してみましょう。
初めて読む人も読んだことがある人も、解説を参考に作者が伝えたいことを読み取ってみてください。

目次

芥川龍之介『羅生門』とは?

芥川龍之介が1915年に発表した短編小説『羅生門』。
芥川龍之介の代表的小説であり、高校の国語の教科書にも採用されているので、一度は読んだことがある人も多いでしょう。
平安時代末期の説話集『今昔物語集』に収録された「羅城門登上層見死人盗人語」を元にしています。
人間のエゴイズムや善悪を描いた作品で一見難解そうですが、話自体は短いのでチャレンジしやすい芥川作品です。

『羅生門』あらすじを簡単に紹介

平安時代のある日の暮れ方、仕事をクビになり行くあてのない下人が京都の羅生門の下で雨宿りをしています。
当時の京都は飢饉や火事が続き酷く荒れていて、下人は盗人になって生きのびるか、どうするべきか揺れ動いていました。
下人が門の二階に上がると沢山の死体が捨てられており、その中に死人の髪の毛を抜く老婆を見つけます。
怒りを覚えた下人は老婆を問いただすと、老婆は髪を抜いてかつらにして売るためだと返答。
老婆は生きるために仕方がない、この女性も人を騙して商売していたからこんなことをされても仕方ないと述べるのでした。
それを聞いた下人は、自分も飢え死にから逃れるために盗人になるのは仕方ないと勇気を得ます。
そして下人は老婆の着物を剥ぎ取り、闇の中に消え去りました。

『羅生門』の時代背景

『羅生門』の舞台は平安時代の京都。
平安中期頃から疫病の流行や天災が続き、武士の台頭や「末法思想」の広がりにより世情が不安定化しました。
当時の荒れた時代背景は作品冒頭で以下のように表されています。
「この二三年、京都には、地震とか辻風とか火事とか飢饉とか云う災いがつづいて起こった。そこで洛中のさびれ方は一通りではない」
老婆らのように、罪を犯さないと生き延びられない人も少なくなかったようです。

『羅生門』の考察と解説

芥川龍之介作『羅生門』のあらすじや時代背景を理解したうえで、作品の考察を簡単に解説。
下人の変化を掴み、『羅生門』が伝えたいことを考えていきましょう。

老婆の悪の定義とは?

老婆は自分の行いに対して、「死人の髮の毛を拔くと云ふ事は、惡い事かも知れぬ」と語っています。
一方で、この死人は生前、切った蛇を干し魚として売っていたのだから、「そのくらいな事を、されてもいい人間だ」ともいいました。
この発言から、老婆は「悪人に対しての悪は許される」という考えを持っていたことがうかがえます。
老婆は善悪の価値観を持ちながらも、生きるための手段として悪を捉えていたのです。

下人はなぜ悪の道へ?

『羅生門』の冒頭、職を失い行き場のない下人は追い詰められています。
しかし「盗人になるよりほかに仕方ない」という事を自分に言い聞かせるだけの勇気が出ずに、心は揺れ動いていました。
実際、羅生門の上で死体の髪を抜く老婆を見た下人は、憎悪の感情を抱きます。
その後老婆から悪を肯定する論理を聞いたことで、下人の心には悪の道に進む「勇気」が湧いてきました。
下人は、自分が生きるために、悪事を働く老婆から服を剥いでも仕方ないだろうと悪に身を任せることにしたのです。

下人のその後は?

老婆の着物を剥いだ後、下人はどうなるのでしょうか。
最後の一文「下人の行方は、誰も知らない。」から、下人の行く末は分かりません。
門の下は真っ暗で、彼が悪の選んだことがうかがえます。
下人はいつか改心するかもしれません。
しかし説明した悪の因果の論理から、悪事を働く下人もまた、誰かから何かを奪われるという考察ができます。
元ネタの『今昔物語集』では、男は元々盗人で、老婆との話も後から盗人が語ったことでした。
作者があらすじを変えた理由は不明ですが、下人の行方について読者に余韻を残しています。

ニキビが意味するものとは?

『羅生門』の中で下人は右頬にあるニキビをよく触っています。
作者はニキビによって下人が若いというだけでなく、精神的に未熟であり善にも悪にもなる人物として描いていると考察できるでしょう。
下人はニキビを気にしながら老婆の話を聞きますが、盗人になると決断した時、下人はニキビから手を離します。
ニキビから、下人の心の動きを考察できる点も物語に深みを与えてています。

羅生門の元ネタ『今昔物語集』の「羅城門登上層見死人盗人語」とは?

芥川龍之介『羅生門』は、『今昔物語集』の「羅城門登上層見死人盗人語」と「太刀帯陣売魚姫語」の一部が元になっています。
『今昔物語集』のあらすじや『羅生門』との違いを簡単に解説するので確認しましょう。

あらすじを簡単に紹介

「羅城門登上層見死人盗人語」の主人公は盗みを働こうと京に来た男。
人が少なくなるのを待とうと羅城門の上に上がると、死人の髪を抜く老婆を見つけます。
老婆を問いただすと、老婆はかつらを作るために髪の毛を抜いており、死人は自分の主人だったが葬儀をする人もいないと述べました。
男は死人と老婆の衣服、死人から抜いた髪の毛を奪って消え去ります。

「羅城門登上層見死人盗人語」と『羅生門』の違い

『今昔物語集』の説話と『羅生門』のあらすじの違いを簡単に解説します。
まず原作では男は盗みを働くつもりでしたが、『羅生門』の下人は盗人になるか迷っているところ。
また老婆の弁明シーンについて、原作では死人は老婆が主人として仕えていた人でした。
一方『羅生門』の老婆は「この女は悪人だったから髪を抜かれても文句は言えない」と弁明。
これが下人が盗人になる引き金になりました。
他にも門の名称は、原作では「羅城門」、作者は「羅生門」と変更。
原作ではこの話は盗人の男が後に語ったとされますが、『羅生門』では下人のその後を曖昧にしています。

作者が「羅城門」から「羅生門」に変えた理由を考察

作者の芥川龍之介が羅城門から羅生門に変えた理由は定かでありません。
羅城門は京都に実在した門で、都の外と内の境界でした。
この門の下で、下人は善悪や生死について葛藤します。
変えた理由としては下人や老婆の「生」をめぐる話が展開される舞台として「羅生門」に変更したのではないでしょうか。
また「羅」という字は、「網の目のように並べ連ねる。並ぶ」を意味し「悪」が連鎖していくさまを表していると考察できます。

『羅生門』が伝えたいこと

『羅生門』で芥川龍之介が伝えたいことを考察しましょう。
それは、人間はきっかけ次第で簡単に悪を選ぶということでしょう。
自分は決して悪事を働かないと思っていても、作中の時代背景のような極限下では分かりません。
今も人間は生きるために仕方ないと動物を殺し食べていますし、これまでの戦争でも生き残るために人を殺してきました。
作者は『羅生門』を通して、人間のエゴや非情さを伝えたいのだと考察できます。

まとめ

芥川龍之介の小説『羅生門』のあらすじから考察、作者が伝えたいことを簡単に解説しました。
作中の時代背景や下人が善悪を迷っている様子、その心変わりのきっかけなどに注意すると、より面白く読めるでしょう。
元ネタは『今昔物語集』の話で、作者が人物設定や門の名称を変えた理由も考察ポイントでした。
記事のあらすじや解説を参考に、さらに『羅生門』の考察を深め伝えたいことを考えてみましょう。

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