映画『哀愁しんでれら』を考察 あらすじや気まずいシーン、ラストをネタバレありで解説
衝撃の展開が話題の映画『哀愁しんでれら』。
映像の中には、細かい伏線が散りばめられています。
この記事では『哀愁しんでれら』のあらすじ、原作や漫画の有無、家族で観る際に気まずいシーンはあるかという点も紹介します。
ネタバレありで伏線やラストを考察し、映画鑑賞後さらに楽しめるようなポイントも紹介するのでチェックしてみてください。
この記事は『哀愁しんでれら』のネタバレを含みます。
作品の結末に関するヒントを知りたくない人は注意してください。
『哀愁しんでれら』のあらすじ(ネタバレなし)
児童相談所の職員として働く小春(土屋太鳳)はある日、たった一夜のうちに数々の不幸に見舞われます。
落ち込む彼女の前に現れたのは開業医・大悟(田中圭)。
彼は、おとぎ話の王子様のように小春を救ってくれました。
そんな2人は急接近し、結婚することに。
小春は大悟と前妻の子・ヒカリ(COCO)と幸せな家族を築いているように見えました。
しかし、その幸せは長続きせず、ヒカリが反抗的になっていきます。
『哀愁しんでれら』原作や漫画はある?
映画『哀愁しんでれら』に原作や漫画はありません。
渡部亮平監督のオリジナルストーリーです。
ただし、スピンオフのノベライズ版である『哀愁しんでれら もう一人のシンデレラ』(秋吉理香子著)があります。
登場人物の名前や細かい設定が違うだけで、あらすじとほぼ同じ展開です。
監督はインタビューで、実際にあった「運動会をやり直せ」と校長に包丁を突き付けた夫婦の事件から着想を得ていることを明かしています。
登場人物とキャスト
ここからは、映画『哀愁しんでれら』に登場するメインのキャラクターとそのキャストを紹介します。
キャラクターの背景を知っておくと、よりストーリーを楽しむことができるでしょう。
福浦小春 (土屋太鳳)
この映画の主人公。
母親に捨てられた過去から「悪い母親にはなりたくない」と思っています。
その思いが強すぎるせいで、児童相談所の業務でも問題を起こすことがしばしば。
泉澤大悟 (田中圭)
妻を亡くし、8歳の娘を育てるシングルファザー。
開業医で財力と人脈があり、王子様のように小春を不幸から救い出します。
母親に叩かれた後遺症で片耳が聞こえにくくなっていることから、「娘には暴力は振るわない」という思いが強いです。
泉澤ヒカリ (COCO)
大悟の一人娘。
最初は小春に懐いていましたが、徐々に試し行動や赤ちゃん返りが目立っていきます。
学校ではワタルという男の子が好きだと小春に序盤で明かしており、「お父さんには秘密ね」と話していました。
COCOさんは世界的なインスタグラマーで本作が俳優デビューです。
【考察】ヒカリの謎(ネタバレ注意)
作中でヒカリは多くのウソをついていますが、その真相は不明なままです。
以下では、映画の描写からわかる真実を考察します。
ここからはネタバレを含むので未見の人は要注意。
筆箱盗難事件の犯人は?
ヒカリが「ワタルが筆箱を盗った」と言ったとき、ワタルは罪を認めませんでした。
後日、自宅から筆箱が見つかりヒカリのウソだと判明します。
事件前、ワタルが来実にちょっかいをかける様子を、ヒカリが羨ましそうに見つめていました。
小春はヒカリに「好きな子にいじめられたい」心理があるのではないかと指摘しています。
なぜヒカリはお弁当を食べなかった?
ヒカリが「弁当を作ってもらえない」と学校で泣いたことで、小春は担任教師から注意されてしまいます。
小春は毎日弁当を作って持たせていましたが、食べていないようでした。
これは周囲の気を引きたいがためのヒカリのウソです。
不幸な子どもを演出して、先生、同級生、ワタルの注目を集めたいのだと考えられます。
ヒカリは来実を殺していない?
ヒカリが来実を殺したのだと考えるのが自然ですが、実際に押す場面や証拠はありません。
監督は、ラストシーンで女の子から渡される手紙「ヒカリちゃんは殺していない みんな知ってるよ」が真実であると明かしています。
ワタルはヒカリに嘘をつかれた仕返しに、来実を突き落としたのはヒカリだと嘘をついたのです。
赤い靴が表すもの
ヒカリがいつも赤い靴を履いている赤い靴は、アンデルセン童話の『赤い靴』と関連がありそうです。
来実の葬儀にも赤い靴を履いて行きました。
アンデルセン童話の『赤い靴』では、主人公が他人への恩を忘れた罪で一生踊り続ける魔法をかけられることに。
童話では主人公が改心し足を切り落とすことで呪いが解かれましたが、ヒカリは改心することなく嘘を重ねています。
【考察】小春=シンデレラ?
映画のタイトルが『哀愁しんでれら』であるように、小春はシンデレラをモデルに作られた人物であると推測できます。
しかし、ほかの童話も盛り込まれたストーリー構成になっています。
不思議の国にとらわれた小春
大悟はまるでおとぎ話の王子様でした。
友人から「まさにシンデレラだね」と言われます。
しかし、大悟の部屋には『不思議の国のアリス』に出てくるような白ウサギの剥製が大切に飾られていました。
次第に大悟とヒカリの裏の顔が見えてきて、小春は幸せなシンデレラから、得体の知れない世界に迷い込んだアリスのようになります。
そんな象徴であるウサギの剥製の耳を壊してしまった小春は、現実の世界に帰れなくなったのです。
理想の母親像との葛藤
小春は母親に捨てられた過去から「悪い母親にはならない」と心に決めていました。
児童相談所に勤めている際、訪問先の母親を「あの女、母親失格です」と吐き捨てます。
娘がウソをついていても、見て見ないフリをして怒らないようにしていました。
しかし結果的にヒカリを叩いてしまい、大悟から「母親失格です」と言われ家を飛び出します。
泣いてすがりついたヒカリと幼い自分が重なり、理想の母親とは程遠いことに気づきます。
【考察】大悟の本性とは
大悟は映画のはじめはおとぎ話の王子様のように描かれていますが、途中から裏の顔が見えていきます。
小春と同じように、彼も「理想の親像」を求めるあまり自滅の道をたどります。
大悟=童話『青ひげ』?
結婚後に自宅を掃除していた小春は、鍵のかかった大悟の部屋を見つけます。
部屋にはウサギの剥製(死体)、前妻のデッサンがありました。
童話『青ひげ』の青ひげと大悟は似ています。
青ひげと呼ばれる男と結婚した新妻は「開けてはならない部屋」を好奇心から開けてしまい、前妻たちの死体を発見するシーンがあるのです。
歪んだ自己愛
大悟には歪んだ自己愛があります。
ヒカリの「何もしてくれないくせに」というセリフで怒ったのは、いじめに対して母親が何もしてくれなかった自分の記憶と被ったからです。
小春に対しても、自分が親にされたことを繰り返しています。
また、自室に自分の裸体のデッサンを飾るなど、歪んだ自己愛が見えるでしょう。
【考察】目の色はなぜ青色に塗られた?
終盤で家族が和解した後、大悟と小春は3人の肖像画に瞳を描き入れます。
なぜ奇妙な「青色」に塗られたのでしょうか?
青には協調や平和という意味がある一方で、抑圧するという意味もあります。
小春はヒカリの疑惑を無視することに決め、大悟はヒカリのために小春と別れない決意をしました。
2人とも本音を抑圧しているのです。
【考察】なぜインスリンを注射?
子供たちにインスリンを注射していくラストシーンは不可解な点があります。
インスリンによる殺人は冒頭のセリフに伏線が張られていました。
ヒカリのために一家心中したあとの妄想の世界で起きたことではないかという説があります。
小春と大悟は悲劇的な形でヒカリを守り、理想の親になろうとしていたのでしょう。
真の家族となって相手の自己本位な考えを取り込んでしまったことで悲劇が起こったと考えられます。
【考察】なぜ小春は点滴をしてもらいたかったのか?
大悟との結婚後、小春は「点滴を打ってもらうのが夢だった」と大悟に言います。
そして小春は点滴を大悟に打ってもらい2人は結ばれます。
ラストの虐殺を思いついたときも2人は点滴をしているのです。
ここでの「点滴」とは、「結婚」を意味していると考えられます。
身体に異物を取り入れる点滴という行為が、新たな人物を受け入れるという結婚をあらわしているのでしょう。
小春と大悟は点滴(結婚)で運命共同体になったと考察できます。
『哀愁しんでれら』は気まずい?
『哀愁しんでれら』を家族や恋人と観て、気まずいシーンはほとんどありません。
点滴をしながらラブシーンが始まるところがありますが一瞬だけです。
しかし、ショッキングな展開があるため、小さな子供と一緒に観る場合は配慮が必要でしょう。
ラストまで目が離せない! 『哀愁しんでれら』を映画・小説で楽しむ
記事を読んで、映画や、スピンオフ小説『哀愁しんでれら もう一人のシンデレラ』が気になった人は、ぜひチェックしてみてください。
細かい設定は違いますが、どちらもあらすじは似ています。
哀愁しんでれら
公開日 | 2021年2月5日 |
監督 | 渡部亮平 |
出演 | 土屋太鳳、田中圭、COCO |
哀愁しんでれら もう一人のシンデレラ
家族に不幸が立て続けに起こってしまう主人公・咲良。
開業医・孝太が倒れている咲良を介抱したことをきっかけに交際、結婚とすぐに話が進みます。
孝太の連れ子・カオリは咲良にはじめは懐いていましたが、徐々に本性を出していって……
理想の親になろうとして自滅していく親の様子が、読者の心を揺さぶります。
親の立場の人はもちろんのこと、子どもの立場の人が読んでも、親の葛藤を理解できる作品です。
シンデレラは幸せになれない 家族になることの葛藤・邪悪さを描いた衝撃作
発売日 | 2020年12月10日 |
出版社 | 双葉社 |
著者 | 秋吉理香子 |
まとめ
映画『哀愁しんでれら』のあらすじ、原作や漫画の有無、気まずいシーンの有無について解説しました。
ネタバレを含む伏線やラストの考察も紹介しましたが、気になった考察はありましたか。
『哀愁しんでれら』は、考察しがいのある不思議な作品です。
また、観た人の立場によっても解釈が変わる映画となっています。
5年後、10年後に観ると感想が変化するかもしれません。
ぜひ、映画『哀愁しんでれら』を観てみてください。